『3D(3次元立体視)のテレビモニター』を見ながら手術します
腹腔鏡下手術では、従来から行われているお腹を切開する開腹手術(オープン法)と異なり、まずお腹に 5mm から 10mm の小さな穴を 3 ヵ所程度あけます。そのうちの 1 つの穴から腹腔鏡を入れてお腹の中を映します。その像をテレビモニターで観察してヘルニアの場所を見つけ、別の穴から入れた手術器具を外科医が操作して患部の治療をします。
腹腔鏡下手術は、視野が限られたモニターを見ながら、人工補強材を用いて鼠径部の腹壁の補強を行いますので、大事な血管や神経などを傷つけたりしないように、また、手術器具を安全・確実に操作するために高度なテクニックが必要とされています。
テレビモニターはお腹の中のヘルニアの状況がよりわかりやすくなる、「3D 腹腔鏡」を用いて、臓器を立体視しながらより正確で安全な手術を行うことが可能となっております。
◎当院のヘルニア手術の推移
2013 年から腹腔鏡下ヘルニア手術(TAPP法)を導入し、徐々に手術件数が増加傾向です。
導入から 2015 年までに 41 件、2016 年は 3 月までに、12 件の腹腔鏡下ヘルニア手術を行っております。
◎腹腔鏡下手術の利点
《右鼠径ヘルニア手術》
《両側鼠径ヘルニア手術》
- 傷あとが小さく痛みが少ないです。(開腹手術では 5cm 程度になります)
- 入院期間が短いです。(4~6 日程度になります)
- 日常生活に早く戻れます。
- ヘルニア発生部位が左右の 2 ケ所にあっても同時に治療できます。
- お腹の中(腹腔内)を観察しながら手術を行うので、症状が出ていない小さなヘルニアの見落としが少なくなります。
◎手術の内容
腹腔内のヘルニア所見
内鼠径ヘルニアと外鼠径ヘルニアの併発症例(Ⅳ型)
メッシュを挿入し固定
黄色点線の範囲にメッシュを留置します
腹膜を縫合閉鎖
メッシュが腹腔内に露出しないようにします
◎当院での実績
2013 年 7 月~
- 虫垂切除、鼠径ヘルニア手術を腹腔鏡で開始(TAPP法)。
- 刈谷豊田総合病院(腹腔鏡下ヘルニア手術を年間約 200 例施行)に 2 回手術見学。
- 腹腔鏡下ヘルニア研究会に参加、手術ビデオ検討会に参加。
2014 年 1 月~
- 大腸・直腸、胃切除を腹腔鏡で開始。
2014 年 10 月~
- 3D 腹腔鏡(オリンパス社)を導入。
2015 年~
- 消化器手術の 8 割を腹腔鏡にて施行。
- 日本ヘルニア学会にて腹腔鏡下ヘルニア手術(TAPP 法)について学会発表。
林 知実、横山 憲三、東 泰志、柳 政行、大久保 啓史、浦田 正和、夏越 祥次:腹腔鏡下鼡径ヘルニア手術における腹腔内観察での手術難易度チェックリスト作成の試み.第 13 回日本ヘルニア学会学術集会,名古屋市,5 月 23 日,2015
2016 年~
鹿児島 TAPP 塾にて手術ビデオ発表予定。
- 九州外科学会、日本外科学会、日本消化器外科学会で腹腔鏡下手術の学会発表予定。
- 日本ヘルニア学会、日本臨牀外科学会、日本内視鏡外科学会に演題提出予定。
鼠径ヘルニア(脱腸)について
◎鼠径ヘルニア(脱腸)になりやすい人
加齢
- 特に 40 歳以上の男性
日常生活
- 咳をよくする人
- 妊娠している人
- 過激な運動をする人
職業
- お腹に力がかかる仕事
- 立ち仕事に従事する人
病気など
- 便秘症
- 肥満
- 喘息
- 慢性肺疾患
- 小児期にヘルニアの既往
- 前立腺手術の既往
◎鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアには 3 つの種類があります。
(1)外鼠径ヘルニア
鼠径靭帯の上で、外側から出てくるヘルニア。鼠径ヘルニアでは一番多いヘルニアです。
(2)内鼠径ヘルニア
鼠径靭帯の上で、内側から出てくるヘルニアです。
(3)大腿ヘルニア
鼠径靭帯の下から出てくるヘルニア。出産を経験した女性に多く見られます。
◎鼠径ヘルニアの症状
- 不快感や痛みを感じます。(不快感や痛みは個人差があり、感じない方もおられます。)
- 立った時やお腹に力を入れたとき、鼠径部に柔らかい腫れを感じるます。
- 指で押さえると通常は引っ込みます。
- 腫れが急にかたくなり、指で押さえても引っ込まなくなります(カントン)。この場合は緊急手術が必要です。
◎手術から日常生活への復帰まで
個人によって回復の程度に差がありますので、手術後の生活については医師の指示に従ってください。
「腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術」
- 術前検査を行います。
- 手術時間は、1 時間~1 時間 30 分程度です。
入院中
- 術後直後、麻酔の影響による頭痛や吐き気がある場合がございます。
- 翌日から歩行可能です。
- 3 日後から入浴可能です。
退院後
- 退院後すぐに、座っての仕事が可能です。
- 1 週間後からゴルフなどの運動を始めても構いません。
- 3 週間後から力仕事を始めても構いません。
鼠径(そけい)ヘルニア外来
当院では、毎週月・木・金曜日に外科医師による鼠径ヘルニア外来を行っております。
その他の曜日にも、外科担当医師による外来を行っております。上記の症状・状態がありましたら、お気軽に外科担当医師にご相談ください。